ザ・ロード

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ユーザーによる口コミ・評価

平均評価: 4.0 / 15件のユーザーレビューがあります

1人中1人がこのレビューを参考になったと投票しています

評価: 4 人間が人間でいられるぎりぎりの存在感を描いたピュリッツァー賞受賞作(2008-11-26)

コーマック・マッカーシーという作家は、’07年度のアカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を受賞した映画≪ノーカントリー≫の原作『血と暴力の国』を読んで初めて知った。
彼は実はアメリカを代表する文芸畑の巨匠で、『血と暴力の国』のようなクライムノヴェルを書いたこと自体が異例で、話題になったそうである。

そこで本書であるが、現時点でのマッカーシーの翻訳最新刊で’07年度のピュリッツァー賞に輝いたベストセラーである。

舞台は核戦争か異常気象で破滅した近未来。日が照らない空は分厚い灰色の雲に覆われ、地上は荒れ果て植物は枯死し動物の姿を見ることはほとんどない。わずかに生き残った人間は飢え、無政府状態の中で凄惨な争いを続けている。

そんななかで名も無い父と息子が、暖かいだろうと思われる南を目指す物語である。ショッピングカートに荷物を積み、道々で食料と物資を探しながら・・・。

旅路で襲われたり、飢餓の恐怖に苛まれたりするスリルはあるものの、これは派手なパニック小説ではない。不気味なぐらい静かで穏やかだ。すでに悲嘆に泣き叫ぶ段階は通り過ぎているのだ。生と死の境界線のあたりをさまよいながら旅するふたりの姿は、人間が人間でいられるぎりぎりの存在感で迫ってくる。それは、息子があくまでも“純真・純粋”に描かれ、彼を守る父親にとって息子が“世界”のすべてだからだろう。

本書は、『血と暴力の国』同様、「心理描写がほとんどなく、会話に引用符をつけない」マッカーシー独特の文章といい、そして本書の「章立て」という区切りのないスタイルといい、彼ならではの独自の世界が展開された傑作である。

評価: 4 淡々として延々…でもどこか悟性に働きかけてくる(2008-11-11)

この物語に登場する人たちはみな生存者ではない。
焼き尽くされ既に灰となってしまった世界が
完全な終わりに向かうプロセスの中で
ただ死に遅れてしまった人々です。

明確なものは何もない。
今がいつなのか…明日はどうなるのか…
確かなのはただ今という瞬間にまだ死んではいないという事実と、
きっともう長くは生きられないだろうという静かな覚悟。

すべてを諦め、すべてを疑わなければ生き延びられない…
ただひたすら父を信じ父を見つめ続ける少年と、
父親が交わす短い言葉での対話が哀しく胸に迫ります。

死滅した世界の遺灰がただ風に舞うだけの…
凍てつく道をふたりは歩きつづける。
ただひたすら南へ向かう父子の行程を見つめながら、
この物語を読む側も瞼を閉じ息が絶えそうな
疲労と寒さを重く感じてくる。

本当の世界の終わりとは…
もしかしたらこうなのかもしれない。

淡々として延々…
描写される父子の毎日を読み取るには、
想像力が求められる独特の筆致で書かれた作品。
でも本当は、現実の将来を考えるのにも、
同じ想像力がもとめられるのだと思う。

世の中には、決して元に戻せないもの、
ふたたび創り上げることなどできないもの…
そういったものがたくさんある。
人間はすべてに手を付けてしまった。

たとえば50年後…
絶えずに続いてきた人間という一団は、
自分たちを種として存続できているのだろうか…?

生気と色を失くした世界…ひと組の父子…
延々とつづくふたりの行程…
そこには安易な平和や自然保護についての主調があるわけでも、
ましてや読者に何かを判らせようとするような
押し付けがましいメッセージがあるわけでもない。
でも自分の中の悟性のどこかに静かに働きかけてくる力を感じます。

世界には罪の数よりも罰のほうが多い…
自分たちは自らの罪によりどれほど多くの罰を後代に残すのだろう。
読み終わった時についつい、
子供たちの笑顔に救いと気づきを求めたくなってしまった。

1人中1人がこのレビューを参考になったと投票しています

評価: 4 「世界」と「運命」の物語(2008-11-05)

物語は(おそらく)核戦争で破滅した世界、灰が降り積もり、地球は核の冬を迎えている。
そんな世界を父親と子供が南に向かってひたすら旅を続ける・・・こう書くとこの物語は典型的な近未来終末SF物語に思えます。
ただ他のレヴューにもあるように、それだけでこの物語を読むと、なにか物足りなさが残ります。
(SF小説としては細部の説明があまりも不足していますし。物語の起伏もあまり少ないです。)
ただ作者の前作「血と暴力の国」からの流れとして捉えると、作者が書きたい本質は別のところに存在しているように思われます。

それは「ひたすらに悪くなる世界」と「運命」ということではないでしょうか。
過剰なまでの残酷描写も、現実世界を見ればあながち物語の中だけのフィクションとも言えないです。
「血と暴力の国」で描かれていた現実社会における「悪」が拡大していけば、人間はどこまでも残虐になっていきます。
時代は更に悪くなり、人の持つ小さな良心でさえ維持する事が困難になりつつあります。
そんな狂った世界でも人はそれぞれ「運命」を背負い(火を運び)、時に悪や善と交わりながら行きて行かなければならないのではないでしょうか。
人としての最後の一線でぎりぎり踏みとどまる主人公が体現する過酷な現実は、我々の眼前にまで迫りつつある現実世界の比喩としてリアルに感じることができます。

最後に子供を持つ一人の父親として、この物語はあまりにも辛く、せつないです。(特に子供の寝顔を見つめるシーン)
軽い気持ちで読むことはあまりお薦めできない1冊です。

4人中2人がこのレビューを参考になったと投票しています

評価: 5 意外にキビシイみなさんのレビューにビックリ!(2008-11-04)

私はこの作品にうちのめされた一人ですので、ここでの評価が賞賛ばかりでないことに心底驚きました。
活字に求めるものは人それぞれですし、それはそれでいいのかもしれませんね。
弁護するわけではありませんが、一冊の本に「生きることの価値」なんて、そうそう考えさせてもらえるものではありません。
想像力がシゲキされ、道徳観・倫理観が試されているようでもあり、途中で読むのがつらくなったりもしましたが、それでも最後まで一気に読まされてしまいました。
結末にはほかにも選択肢があったかもしれないなぁ〜、とも思いましたが、ともかく、読んでよかったです。

14人中5人がこのレビューを参考になったと投票しています

評価: 2 良い小説だと思うが、設定が脆い(2008-10-12)

独特の文体と、破滅的な雰囲気が調和した小説。
 人間以外の一切の生命が滅んだ(ように見える)世界で、父と息子が助け合いながら生きてぬいてゆこうとするその描写には、心打たれるものがあった。 二人の会話はシンプルだが、互いを思いやる心が十分に表現されていて、それは見事だと思った。

 しかし、それ以外の要素は、ほとんど魅力的なものではない。

 世界が崩壊した原因が説明されないというのは、この小説が「所詮人間の認知能力などというものは世界の根本を捉えることができない」という認識に基づいて書かれているのだと思えば、それはそれで特に問題はないのだが、その絶望的破滅の描写が延々と小説の最初から最後まで続くので、さすがに途中からだれてくる。 草木が枯れ灰が積もる世界崩壊の有様は、とてもよく書かれてはいる。 しかし、半分過ぎた辺りから、くどいと思うようになってくる。

 また、いくら世界の終末、人間の限界状況を描くと言っても、あらゆる生命が死んでいるという設定には無理がありすぎ、そして説得力がなさすぎる。 この小説がもっと戯画的に、一貫して、いわゆるシュール・レアリスムのように書かれていたなら、その無理な設定も、ある程度受け入れられたかもしれないが。

 もう一つ、ほとんど説得力のないものとして、残酷描写が挙げられる。 私は描き方が残虐であることを根拠にその物語の評価を下げようとする類の人間ではないが(むしろ評価項目の一つにすら挙げたいと思う)、それでも、この小説で起こる殺人は無駄に、無意味にグロテスクを装っている。 例えば、これ見よがしに置かれ、ずたずたにされ辱められた生首。 この小説の世界では人間は食糧であるわけだが、だからと言ってそこまでする意味はどこにあるのか?と、悲しさや恐怖よりも不思議や違和感を先に覚えてしまう。
 生命の尊厳を切り刻み、踏みにじり、これでもかと言わんばかりに貶めるのは大いに結構。 それがその物語の中で自然な形で理由付けられていれば、両手を上げて受け入れよう。 しかし、このストーリーではそうではない。 人間を食糧としてまで生きることに必死な人々に、死体を辱める余裕があるとは思えない。 浮いた、説得力のない描写だと思う。

 もっともがっかりしたのは、落ち。
 これから読み始める人もいるだろうと思うので詳細は省くが、このラストに続くシーンこそ、こうした絶望に覆われた世界観を描く小説のメインテーマだろう。 「The Road」の世界にも、そしてこの現実社会にも、希望の種なんて、そこらじゅうにあるだろうと思う。 しかし、問題なのは、それがどう芽吹いていくか(あるいは朽ちてゆくか)、ではないのだろうか。 ここにこそ、作者が書かねばならない義務があるはずなのに。